書評 東栄一郎『帝国のフロンティアをもとめて』

『図書新聞』の2022年11月12日号に、東栄一郎先生の『帝国のフロンティア』についての私の書評が掲載されました。

東先生の今回のご著作は、北米と中南米の日系移民の連動性だけではなく、東アジアを含む西太平洋地域の移植民現象との連動性まで視野に入れ、単なる経済的側面だけではなく、「明白な運命論」や「平和的膨張主義」といったイデオロギー的側面からも、環太平洋の近代日本人移民の歴史の見取り図を描いた意義深い研究書です。

詳しいことは、下記の私の書評や実際の東先生のご著作を読んでいただければと思います。

原著をご執筆なさった東先生、そして翻訳してくださった翻訳者のみなさん、ありがとうございました。

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「書評 太平洋の東から見た日本近代移民史 東栄一郎著『帝国のフロンティアをもとめて』」
『図書新聞』第3566号、2022年11月12日、5面。
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樺太引揚者関連番組への協力とVTR出演。

8月15日に北海道で放送された番組の制作に協力して、ほんの少しですがVTR出演もしました。

番組の主な内容は、樺太引揚者(正確には「緊急疎開者」)の方への取材で、稚内の育英館大学の学生さんによるドキュメンタリー作品の製作についても紹介しておりました。

ウクライナ侵攻が続く中で、同じくロシア(ソ連)の侵攻を受けた地域からの避難民として樺太や千島からの引揚者の方々の存在を思い起こし、その声に耳を傾けることは大変意義深いことと思います。

私が協力したのは歴史的背景の解説が主で、番組に直接反映した部分は少なかったのですが、それでもずいぶん丁寧で熱心なやり取りを重ねました。

専門家をアシスタントのように使い倒そうとする大手テレビ局がある中で、地方局がこのように真摯な番組作りをしてくれていることはたいへんうれしいことです。
 
それも含め、こうした番組を作ってくれた制作スタッフのみなさんには感謝いたします。
 
こうしたしっかりした番組作りには、これからも専門家として協力していきたいと思います。

なお、番組の内容は下記のサイトから文字情報として読むことができます。

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「みんテレ 旧樺太からの“引き揚げ者” 77年目の証言…「ウクライナ」に思い寄せ 若い世代に体験を語り継ぐ」UHB(北海道文化放送)、VTR出演・取材協力、2022年08月15日(https://www.uhb.jp/news/single.html?id=30016) 
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ナカシベツ大学で講演

中標津で行なわれる生涯学習講座でお話をさせていただきました。
3月の道新記事をご覧になった担当者の方がお声をかけてくださいました。
 
サハリン島の歴史から、ウクライナや北方領土、北海道の未来について何が言えるか、というお話をしました。
 
ちょっと詰め込み過ぎかなと心配だったのですが、受講者のみんさんが最期までたいへん熱心でうれしかったです。
 
やはり道東の街だからこそ生まれる切実さがあり、万人向けの放送や配信ではできない語りの場というのがあるということを実感しました。
 
講演後も、会場でご質問をいただいたり、数日後にお手紙をいただいたりという熱心な反応をいただきました。地元のみなさんの声を聴けるたいへん貴重な機会となりました。
 
ご参加いただいたみなさま、企画していただいたみなさま、ありがとうございました。
またの機会を楽しみにしております。

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「境界地域サハリン・樺太の歴史から考えるウクライナと北海道の未来」
一般財団法人中標津町文化スポーツ振興財団主催生涯学習講座「第16期ナカシベツ大学」第4回、
中標津町総合文化会館しるべっと、2022年08月25日。
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道新に協力記事 ウクライナから帰国の降籏さん。

『北海道新聞』の旭川上川版に掲載された以下の記事に協力いたしました。

サハリンに残留し、ウクライナへ移住、そしてウクライナ侵攻を機に日本へ永住帰国した降籏英捷さんの人生は、我々にとっても、国境、国籍、国家とは何なのかを考えさせてくれる重要な材料です。

私は、降籏さん一家が引揚げ・帰国できなかった背景について、専門家として見解をお伝えしました。
記者さんからの問い合わせで、史料を見返していろいろな発見もありました。

降籏さんを始めとしたウクライナ侵攻から逃れた人々、またいまだその渦中にある人びとが一日も早く安心して過ごせる日々が来ることを心より願います。

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山口真理絵「戦禍を逃れて 降籏英捷さんと二つの故郷 上 サハリン残留 極貧、強制移住 望郷募る父母」『北海道新聞』2022年08月09日(朝刊旭川・上川版)、第14面
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京大人文研アカデミー サハリンの残留・抑留とジェンダー

京大人文研アカデミーのジェンダーに関するシンポジウムでサハリンをめぐる残留と抑留について報告させていただきました。

自分自身はこれまでジェンダー研究とは距離を置いて研究をしてまいりました。
確かにサハリン残留日本人には女性が多いのですが、それを理由にジェンダーの観点から研究をしてしまえば単なる「女性史」になってしまうことが危惧されたからです。

女性史研究は、それまで男性中心に研究されてきた分野の見落としを拾い上げ「人間史」に近づけるという意義があります。

しかし、サハリン残留日本人については、最初から女性が多いという一般的理解があるのですから、「女性史」として研究してしまえばサハリン残留日本人問題を女性の問題として特化させてしまいかねず、それでは「人間史」から遠ざかってしまいます。

こうした考えからジェンダーの観点からサハリン残留日本人について論じることにはずっと慎重だったのですが、今回は私のサハリン残留日本人研究をこの10年以上にわたり見守ってきてくださった蘭信三先生からお声をかけていただき、ではやってみようという運びになった次第です。

内容としては、公文書や引揚者団体資料などから、サハリン残留日本人=女性という一般的理解がどのように形成されたのかということをたどっていくものです。

樺太関連シベリア抑留者やサハリン残留朝鮮人との対比も行ないながら論じたのですが、同じく登壇者である山本めゆさんの深い考察からはまだまだ論じるべき部分が多くあることを気付かさせていただきました。

他の登壇者や参加者の方のご報告やコメントも自分にとっては新しい扉を開くための鍵となるものでした。

今回このような機会を与えてくださった蘭信三先生、竹沢泰子先生、また登壇者、会場スタッフ、参加者のみなさま、どうもありがとうございました。

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「日ソ戦後の記憶とジェンダー:サハリンをめぐる残留と抑留」
人文研アカデミー2022シンポジウム「東アジアの脱植民地化とジェンダー秩序:女性たちの経験と集合的記憶の再構築」京都大学人文科学研究所およびオンライン開催、2022年07月10日。
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書評 左近幸村『海のロシア史』

スラ研時代にご一緒させていただいておりました左近幸村さんのご著書『海のロシア史』の書評を書かせていただきました。
左近さんの博士論文が基になっており、その博士論文の公開審査会には私も一聴衆として参加させていただいておりました。

ロシア帝国と言えば大陸型帝国として論じるられるのが常ですが、ではそのロシア帝国にとって海とは何だったのか、またどのような海運インフラを構築し、それがどのような政治的社会的、また国際的影響の中で進められたのかがわかる一書と言えると思います。

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「書評 左近幸村著『海のロシア史 : ユーラシア帝国の海運と世界経済』」
『歴史と経済』第64巻3号、2022年4月、64-66頁。
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追悼 今西一先生

私もたいへんお世話になった小樽商科大学名誉教授の今西一先生が今年初めにお亡くなりになっていたという報せを先日受けました。

今西先生と最初にお会いしたのは、2006年の夏で私は大学院生でした。

歴史民俗博物館の共同研究が札幌で開催した研究会に私も参加させていただき、その懇親会の席で偶然向かい合わせで座ったのが初めてお話したときだと思います。

その後、2008年にサハリンで行なわれた日ロ国際シンポには竹野学さんにお声をおかけいただき私も参加させていただきましたが、その際に日本側の団長を務められたのが今西先生でした。

今西先生は元々はサハリン樺太史研究を専門となさっていたわけではありませんが、このシンポを機に発足したサハリン樺太史研究会では副会長を務めてくださったように、サハリン樺太史研究の振興に積極的にご尽力くださいました。

当時、私がサハリン樺太史研究の最若手であったことや、今西先生が博士号をとられた京大農経の院生であったこと、そして私が研究のため頻繁に京都と札幌を行き来していたこともあり、様々な面で気にかけてくださいましたし、今西先生のお話や実際の行動から多くのことを学ばさせていただきました。

私の研究者人生の基礎作りの段階で、ほんとうにお世話になった方であり、今でも感謝の気持ちでいっぱいです。

サハリン樺太史研究会の白木沢旭児会長が追悼文を同研究会のWebサイトで公開しています。今西先生とサハリン樺太史研究のかかわりについて紹介されているほか、関連著作リストと各論文のURLも掲載されております。

追悼 今西一(IMANISHI Hajime)元・副会長  
http://sakhalinkarafutohistory.com/imanishi.html

今西先生が残された課題を再確認し、それに取り組み今西先生の研究の成果を受け継いでいきたいと思います。

『北海道新聞』にインタビュー記事掲載。

『北海道新聞』の釧路・根室版にインタビュー記事が載りました。

主に自分の研究について語った部分が紹介されておりますが、最後のところで今次のウクライナ侵攻による境界変動が起こすであろう問題への指摘についてもとりあげてくださっています。

電子版としては公開されていないので、釧路・根室地域の公共図書館で読むか、道新のデータベースから読むかするしかないのですが、ご関心のある方はご覧ください。

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今井裕紀「歴史学び今を考えて 樺太を長年研究する釧路公立大学准教授 中山大将さん(41)=釧路」『北海道新聞』2022年03月28日(朝刊)(釧路・根室版)
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ウクライナ侵攻について自身の研究から言えること。

私の専門は軍事ではないので、ウクライナ侵攻をめぐる短期的な現象について専門家として何かを言うことは難しいのですが、「戦争」ではなく「境界変動」という視点からこれから中長期的に起きるであろうことについて記しておきたいと思います。
 
 
1.脱境界化
現在のウクライナは「脱境界化」過程にあります。ロシア軍の侵攻によって従来の国境の一部が機能しなくなっています。また、ポーランドなどの周辺国が避難民の受け入れを表明したことで非常時の越境的移動も発生しています。
 
 
2.再境界化
停戦や休戦によって戦闘が停止する、あるいは膠着状態が継続することで、新たな境界が発生します。
 
具体的に言えば、従来のウクライナ領土内にロシアの実効支配地域が生まれ、そことウクライナの実効支配地域の間に境界が発生します。
 
その前後に、境界を跨ぐ大量の住民の退去や排除が起きる可能性があります。

ロシアの支配地域に居住するウクライナ国民に対して、ロシア政府が居住権の保障の代わりにロシア国籍の取得を要求することが起きれば、それを拒むウクライナ国民の域外退去が発生することになります。
 
また、ウクライナの実効支配地域に居住するロシア系住民がウクライナ系住民からの迫害を怖れてロシアの実効支配地域へと退去することも起き得ます。
 
 
3.跨境化
新たな安定的な境界が生まれた後に問題となるのは、その境界の「透過性」です。
 
もしこの境界の「透過性」が低く人の往来が困難となれば、ウクライナの実効支配地域とロシアの実効支配地域との間で、家族離散や故郷喪失などが長期的に発生することとなります。
 
こうした「悲劇」を回避するには、「透過性」を高く維持するしかありません。
 
注意すべきは、たとえロシア(あるいはウクライナ)の実効支配地域の面積が「ゼロ」となったとしても、境界の「透過性」は、少なくとも、以前よりも低下しているはずだということです。
 
戦争による戦災だけが「悲劇」ではありません。
戦争にともなう境界変動もまた「悲劇」を生み出します。
 
戦災からの復興だけではなく、こうした境界の「透過性」の維持も中長期的な課題となります。
 
 
4.第三国において注意すべき現象
これは短期的な問題ですが、直接交戦していない日本のような第三国においても、発生を予防しなければならない現象があります。
 
それは在日ロシア人や仕事などでロシアにかかわっている人々への憎悪感情です。
 
まず、これらの人々は今回の侵攻に直接かかわっているわけではありませんし、その全員が今回の侵攻を支持しているとも限らず、ロシアとかかわりがあるという理由だけで憎悪感情を抱くのは、何らの正当性も無い不合理で理不尽な行為でしかありません。
 
また、これらの人々の中には今回の侵攻に批判的な人々も多く、こうした人々をロシアとかかわりがあるという理由だけで排撃すれば、それはむしろ侵攻を幇助することにさえつながります。
 
そして、ロシアとかかわりがあり、一般的な日本居住者よりもロシアへの知見が深いであろうこうした人々を排除し沈黙を強いることは、この社会全体がロシアの動向とそれへの対応を冷静かつ理性的に判断するための材料を喪失することにつながります。
 
露骨な憎悪感情を表明する人々は、純粋な義憤というよりも、自分が正義を振りかざすことで自己陶酔を得ることが目的であることが多いと予測できますので、そうした人々の扇動に付き合う必要はありません。
 
以上が、自身の歴史研究の知見から言えることです。
 
*上記のうち特に1~3の具体例の詳細などは、下記の拙著で論じております。
 『国境は誰のためにある?:境界地域サハリン・樺太』清水書院、2019年。
 『サハリン残留日本人と戦後日本:樺太住民の境界地域史』国際書院、2019年。

The Asiatic Society of Japanで「境界地域史」講演。

縁あって、The Asiatic Society of Japan(ASJ)という学術団体で講演を行なう機会をいただきました。

名誉後援者の高円宮家憲仁親王妃久子殿下や各国大使も出席するという場で、私の研究生活上、異例の経験となりました。

日本にかかわる研究をしている様々な分野の研究者の研究を発表する場ということなので、「境界地域史」の観点からサハリン樺太史を紹介するという内容にいたしました。

拙著『国境は誰のためにある?』の内容をすべて話せれば一番よいのですが、それではたいへん時間がかかるので、「境界変動」「住民移動」「国民再編」「記憶構築」という4つの指標のうち、「境界変動」のみ近現代史全体を紹介し、日ソ戦後についてのみ「住民移動」「国民再編」「記憶構築」を詳しく紹介することにいたしました。

ロシアのウクライナ侵攻開始後から、いくつかの国の大使の参加表明の報を受けるようになり、正直なところ、いささか憂鬱な気分にもなりました。

私自身の研究は、この事態に対する何がしかの提起を期待されたとしても、何か言えるようなものではなく、無力さを痛感させられたからです。

そうしたことに思い悩みながら準備を進める中で、自分の研究はこうした短期的な現象に対して何かを言えるものではなく、戦争が終わった後の数十年にわたる長期的な現象に対して歴史的経験から提起を行なうことができるものだと改めて思うようになりました。

父親を残してウクライナからポーランドへ避難する子どもの映像を見ましたが、これはまさにソ連の樺太侵攻時の「緊急疎開」で起きていたのと同じことです。

たとえこの戦争がどのような形に終わるにせよ、戦後秩序において境界の透過性を高く維持しなければ、新たな悲劇が長期的に継続することになるということ、それを実証的に示せるのが私の研究であると改めて思えました。

「サハリンの中のウクライナ」というお話もさせていただきました。

第48代横綱・大鵬は日本で最も有名なウクライナ系日本人と言えるかと思いますが、この大鵬をめぐってウクライナと日本をつなげるのが樺太です。ウクライナ出身の大鵬の父親は、1925年にソ連を嫌って北サハリンから樺太へと移住し、大鵬は樺太で生まれたからです。

樺太のウクライナ人に関する記述を再確認するために、当時の資料を読み返していたところ、大鵬の父親の名前を思いがけず再発見したりもしました。

サハリンには日ソ戦後に移住してきたウクライナ系の住民が少なくないことを思い起こし、いま起きているウクライナ侵攻を決してロシア人対ウクライナ人の問題として理解してはいけないということに改めて気付かされました。

在日ポーランド大使も出席するということで、ブロニスワフ・ピウスツキと漫画『ゴールデンカムイ』についてもとりあげました。

ポーランド人の方から、ポーランド出身の偉大な民族学者・ピウスツキについて言及してくれてありがとう、というお声をいただいたのですが、サハリン樺太史研究者としては、サハリン研究の大先達であるピウスツキのことを、ポーランドの方々が今でも大切にしてくださることをうれしく思い、こちらこそありがとうございますという気持ちになりました。

本来は会員以外は参加できないのですが、講演者は参加者を招待してもよいということでしたので、日本語で発表された私の研究を読むことのできないロシア人の歴史研究者を招待させていただき、自分の研究を知ってもらうよい機会となりました。

このようなご縁を与えてくださったみなさまに改めて御礼を申し上げます。

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“A Borderland History of Sakhalin/Karafuto: Border-Shifting, People-Relocating, Nation-Redefining and Memory-Constructing,”

Online Lecture, The Asiatic Society of Japan, February 28th 2022.
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