地域経済史研究室のWebサイト開設。

地域経済史研究室のWebサイトを開設しました。

https://locaregionaleconomichistory.econ.hokudai.ac.jp

「地域経済史研究室」と言っても教員は私ひとりで、演習は非開講のため学生・院生などもいない状況ですから、今のところあまり発信することも無いのではありますが、「境界地域史研究資料統合計画」の活動について発信していく場としても活用していきたいと思っております。

中山大将個人の研究業績の蓄積は今後もこのBlogで続け、教育関係や研究動向、「境界地域史研究資料統合計画」などは地域経済史研究室のWebサイトで発信していく予定です。

朝日新聞に談話掲載、樺太引揚げと日露戦争。

樺太引揚者へのインタビュー記事に関連して、私の短い談話が『朝日新聞』に掲載されました。

日ソ戦争時・後の日本人の疎開・引揚げを語るなら、日露戦争時にロシア人の退去が起きていたということも想起すべきという指摘です。
  
もちろん、それは〈どっちもどっち論〉ではなく、境界変動のもたらす普遍的現象として疎開・引揚げ、退去をとらえ、未来に向けて情緒的・空想的にではなく理性的・科学的に思考しようという提起です。
 
この指摘の着想自体は、私も工藤信彦先生から学んだもの(詳細はこちら)ですが、樺太引揚げ関連記事でそこまで言及する記事は少ないように思います。

今回は日露開戦120年ということで組まれた記事だからこそ言及できたと言えるかもしれません。

今回の記者さんの取材姿勢はほんとうに誠実で丁寧で私の談話も限られた字数で適確にまとめてくださっており、こうした記者さんに出会えるとほんとうにうれしいです。

人道問題に関する報道に携わりながらも、報道機関という権力を振りかざし、研究者の成果を横取りしたり、あるいは研究者を自分に忠実な下僕のように使い走らせようとするマスコミ関係者も少なくない中で、こうした誠実な記者さんはほんとうに貴重だと思います。

私の談話という形をとってはおりますけれど、樺太に生まれ樺太のことを考え続けた工藤信彦先生の〈思想〉が全国紙に現われたことはたいへんうれしいことですし、またそうした機会を与えてくださった記者さんにも感謝いたします。
 
——————————————–
玉置太郎「40年だけの日本領、「樺太は故郷」と元島民 日露開戦から120年」『朝日新聞』2024年02月21日(夕刊)、第6面。
——————————————–

サハリン/樺太史研究DB公開停止。

サハリン/樺太史研究DB公開のために用いていた京都大学の「Myデータベース」を今年度をもって廃止するという通知が先日京都大学の担当者の方から届きました。

サハリン/樺太史研究DB:https://nakayamataisho.wordpress.com/borderlandsdb/sakhalinkarafutodb/

このため現在公開中のDBは2024年03月31日以降は使用できなくなります。

ただし、データ自体は中山の手元にありますので、現在、新しい公開方法を模索しております。

再公開が実現したらまたお知らせいたします。

指導教員・受入教員の依頼を希望する方へ

中山に指導教員・受入教員の依頼を考えている方は、以下の点をご注意ください。

(1)大学院生など単位・学位認定が必要な場合
〇研究の主題
農業史、移民史、地域史(北海道・樺太・千島)のいずれかに該当し、かつ地域経済史研究である場合のみ受入れを行ないます。
*「地域経済史」に相応しい研究主題について充分な指導を行なうために、研究主題の範囲を限定しております。

〇能力や状況(修士課程「専修コース」希望者は除外)
中山を超える研究能力を将来的に有する見込みがある(あるいはすでに有している)と現段階で判断できる場合、あるいは、年金生活者や専業家事従事者、自営業者、初中等教育機関教員・士業等の有資格者など研究職への就職にこだわらない場合のみ受入れを行ないます。
*指導・受入期間終了後あるいは退学後に指導教員として研究職を提供できるわけではないので、自身の能力と実績で研究職を得られる見込みがある、あるいはその必要性の無い人のみ受入れ対象に限定しております。

(2)学振特別研究員など単位・学位認定が必要無い場合
〇研究の主題
中山の専門・関心にかかわれば、研究分野・対象地域や経済史研究か否かは問わず受入れを行ないます。

〇能力や状況
北海道大学において誠実に自分の研究を遂行できる能力・状況であれば、受入れを行ないます。

(3)そのほか
*上記(1)(2)いずれの場合も、受入れを正式に認めるまでの過程における個別審査等により受入れを認めない場合もあり得ます。
*また受入れを認めたからといって入学まで認めたことにはなりませんので、入学のためには院試に合格する必要があります。
*大学院進学については、早い段階から受入れを希望を表明する必要があります。詳細は、以下のサイトから確認できます。
 https://www.econ.hokudai.ac.jp/e_exam/daigakuin/

上記の条件は、今後変わることもあり得ます。

トランスナショナル論文がWeb公開。

2019年に日本移民学会のシンポジウムで報告し、2020年に刊行された以下の論文がWeb公開されました。

シンポジウム企画者、登壇者、参加者のみなさん、Web公開の手続きを行ってくださったみなさん、ありがとうございました。

————————————
「現代東アジアにおいて〈トランスナショナル〉を問うことの意義:日本移民学会編『日本人と海外移住』を起点にして」
『移民研究年報』第26号、2020年6月、19-27頁。
https://doi.org/10.60271/jamsarms.26.0_19
————————————

食の〈自由〉と食の〈正義〉。

食生活をめぐって国民の健康の観点から国家の干渉などが行なわれてきたことは、近代史の分野では広く知られていることと思います。

現代では、環境の観点から特定の食への制限に関心が広まりつつあるかと思います。

そうした食の〈正義〉を前にして、我々は食の〈自由〉を主張することはできるのか、ということを合理性から食の〈不自由〉を押しつけようとした歴史上の事例から考えた農業史学会のシンポジウムでの報告を論文として刊行したのが以下のとなります。

歴史が未来を考えるために〈役に立つ〉事例になればと願います。

————————————–
「食の〈質〉的貧困と合理性:樺太米食撤廃論から考える食の〈自由〉と食の〈正義〉」
『農業史研究』第57号、2022年03月、3-10頁。
————————————-

慰霊碑が語ること語らないこと

同志社大学の王柳蘭先生の共同研究メンバーと同志社大学人文科学研究所の講演会を開かせていただき、私は下記の題でお話をさせていただきました。

論文「樺太日本人慰霊碑はなぜ建立できたのか」の論点を手短に紹介させていただきました。
講演会での発表や質疑応答は、後日ブックレットとして刊行される予定だそうです。

今回の講演会と質疑応答に参加しての改めての発見は、「故郷」という概念は必ずしも普遍的なものではなく、時代や地域によって意味する事柄は多様であったり、政治的構築性も帯びているのではないかということです。

このあたり今後の研究の中で注意して考えていきたいと思っております。

———————————————————
「慰霊碑が語ること語らないこと:日ソ戦争が生み出した樺太住民の故郷喪失」
同志社大学人文科学研究所第106回公開講演会「越境者をめぐる<故郷>と<境界>:個の物語から考える」同志社大学良心館407室&オンライン、2023年07月08日。
———————————————————

NHKスペシャルの30年 追悼 関正則氏。

早稲田の浅野豊美先生が率いてきた研究プロジェクト「和解学の創成」の成果のひとつとして和解学叢書第6巻が明石書店から出版されました。
私も30年にわたるNHKスペシャルの番組の題材の動向についての論稿を執筆させていただきました。

NHKスペシャルは私も子どもの頃からよく見ていた番組であり、いろんな世界を教えてくれる〈扉〉の役割を果たしてくれました。

「和解」にかかわる回の一覧表も掲載されておりますので、「和解」の観点からNHKスペシャルについて考えるための基礎資料になればと願います。

編者の浅野先生、ほか執筆者のみなさま、ありがとうございました。
  
本書が手許に届くのとほぼ同時に同社の編集者であった関正則さんの訃報に接しました。

関さんとの最後の仕事は和解学叢書第4巻でした。
それとは別にサハリン残留朝鮮人問題についてもいろいろと質問を受け、私自身もいろいろと考えが深まったのを覚えています。

和解学叢書が世に出ることになったのも、こうした関さんたちの理解と協力があったからこそと思います。
研究者の研究が図書として出版・流通するにはこうした編集者のみなさんのお力があってこそと改めて思わせていただきました。

関さん、ありがとうございました。

———————————————–
「NHKスペシャル三〇年における〈和解〉」浅野豊美編『想起する文化をめぐる記憶の軋轢:欧州・アジアのメディア比較と歴史的考察』明石書店、2023年08月15日、219-246頁。
———————————————–

ISAで「残留の比較史」成果報告。

ISA(International Studies Association)で2022年度共同研究「残留の比較史研究」(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター)の個人的成果報告をさせていただきました。

どのような場合に「残留」と見なされ、また「悲劇」と見なされるのか、という点を「構築性」の観点から日清戦争後の台湾と樺太、第二世界大戦後のサハリン残留日本人と台湾残留日本人を事例に論じました。

他の方の報告もうかがって、もっともっと研究を深めて行こうという気持ちなれました。
ありがとうございました。

ああした「学術大会」の場の意義を再認識しました。

お誘いくださった諸先生、同じパネルに立った報告者のみなさま、コメントをくださった討論者の先生、また大会を組織してくださったみなさまに御礼を申し上げます。

——————————————————
“Border Shifting and Remaining in Modern East Eurasia,” ISA(International Studies Association) Asia-Pacific Region Conference 2023(Panle: The Possibilities of Asia-Pacific Area Studies
for Promoting Interdisciplinary Research), Waseda University (online), August 10, 2023
——————————————————

樺太の森林と植民者植民地主義。

東アジア環境史学会で、共同研究「帝国日本の林学者と植民地林業の研究」のパネルを組み私も報告をさせていただきました。

日本領樺太の森林資源開発関係者の中に、「植民者植民地主義」は見出されるのか、森林資源開発をどのように正当化していたのかということが主題です。

樺太庁の職員として林業にかかわっていた荒川真文と田畑司門治の事例を中心とした今回の研究で見えてきた点としては、林政関係者らや林業技術者らが①先住民族の権利には無関心であったこと、②日本は世界に誇る「森林国」であり日本民族は森林の持続的開発ができると考えていたこと、③持続的開発のためにも天然更新に頼るのではなく農業入殖と連動して造林を強化すべきと考えていたこと、④ロシア人は極東森林資源を放置しているから日本人が開発すべきであると考えていたこと、⑤戦後には樺太引揚者一般に「戦後植民者植民地主義」のようなものが見られたのに対して元・樺太林政・林学関係者にはそうした傾向が見られないこと、が挙げられます。

ただし、①については、既刊の拙稿でも言及しているように、1910年代末の北樺太調査においては先住民族の生業に対する「人道的」配慮の必要性を述べるものもあり、さらなる検証が要されます。

また、そもそも林政・林業関係者の発信自体が少ないため、今後はより多くの事例を集めて検証を重ねる必要があります。

コメンテーターである水野祥子先生からも有益な情報をいただき、農林連携については再度「農」の側からも検証しておく必要があることに気づかされました。

パネルを組んでくださった共同研究のみなさま、また大会を組織してくださったみなさま、どうもありがとうございました。

——————————————————
“Settler Colonialism of Foresters in Karafuto, a Subarctic Territory of the Japanese Empire,”
in panel “Panel Imperial forestry in the territorial expansion of Japan: Foresters, science, and management,” The Seventh Biennial Conference of Association for East Asian Environmental History (EAEH 2023), Korea Advanced Institute of Science and Technology (KAIST) and Institute for Basic Science (IBS) in Daejeon, South Korea (by movie), June 30, 2023.
——————————————————-