中山大将『歴史総合パートナーズ⑩ 国境は誰のためにある?:境界地域サハリン・樺太』
清水書院、2019年12月9日、総117頁

本書は、2022年度から高校教育で導入される予定の科目「歴史総合」に向けて教科書会社の清水書院が刊行している「歴史総合パートナーズ」シリーズ第10巻として出版されたものである。
主な読者としては、高校生を想定しており、著者の最新研究を一次史料から論じる性格のものではないものの、日本語文献では戦後の歴史研究の成果を反映したサハリン島史に関する歴史研究者が執筆した通史がこれまで存在していなかったため、関連研究者にとってもサハリン島の歴史の全体像の再提示と、境界研究を理論的背景とした歴史叙述(境界地域史)の試みとして学術的意義を持つ。

以下、各章の要約は以下の通りである。

「はじめに:ベルリンの壁とトランプの壁」では、「ベルリンの壁」が世界にボーダーレス時代を期待させたものの、現状としては「トランプの壁」に象徴されるようにボーダーフル化が進行していることを指摘した上で、国境はなぜ存在するのか、国境が変わると何が起きるのか、という本書のテーマを提示した。

第1章「国境と国民の時代」では、近代を〈国境と国民の時代〉ととらえ、国民国家体制の形成と国境・国民の関係性を論じた上で、日本がどのような形で旧来の東アジア的華夷秩序から〈国境と国民の時代〉へと移行したのかを論じるとともに、国境と民族の不一致という国民国家が抱える矛盾の存在を指摘した。

第2章「サハリン島は誰のものか?」では、章題の問いかけについて、考古学的知見や中国の古い文献の中のサハリン島に関する記述、サハリン島の地理的知識の蓄積過程、同島をめぐる初期の国際条約の締結背景をたどった上で、サハリン島が〈国境と国民の時代〉を迎える局面について論じた。

第3章「なぜ国境は変わり人は動くのか?」では、外交交渉や武力行使などで国境・境界の位置が変化することで先住民族も含めた人の移動が起きることとその理由について示すとともに、移動せずに〈残留〉した人々の生活がどのように変化したのかについても示した。

第4章「なぜ越えられない国境があるのか?」では、地理的移動だけではなく、「透過性」という概念から越境の条件の変動も境界変動の一環としてとらえ、第二次世界大戦後のサハリンにおいてなぜ〈引揚げ〉が発生し、また同時に〈残留〉が発生したのかについて〈国籍〉の問題とも関連付けながら論じた。

「おわりに:〈歴史〉は〈未来〉である」では、境界変動やそれに付随する移動や残留という現象が、国民国家体制が続く限り繰り返し発生し得るものであり、〈歴史〉を学ぶことは〈いま〉を知り、〈未来〉を考えることにつながることを示し、歴史研究および歴史を学ぶ意味について論じた。